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実りを待つ季節/ 光野 桃 新潮社 ★★★★

編集者→イタリア生活→執筆活動というプロフィールから、世渡り上手で女性誌好みの
トレンディな話題を書くだけの人という先入観を勝手に抱いていたが、
本書を読んで向田邦子に通じるような人柄の魅力と文才を感じた。
自身の少女時代、まだ若かった両親の思い出や
日常生活のさりげない情景描写がどこかなつかしくやさしい。

著者の子ども時代の家庭の回想、
「羽目を外すことや享楽的に生きることを嫌う慎ましい家に育った自分の心の葛藤」
おませで、大人に対して臆することなく自分の意見を言う他の少女たちに比べて
おとなしく不器用な我が娘をみっともなく気が利かないように感じ、
それがそのまま自分の少女時代の思い出につながっていく描写、
「羨ましかったのは、大きな兄弟や若い叔父叔母に囲まれて華やかに育ったクラスメイトだった。
(中略)大勢の親族の中で社交というものを自然に体得していく彼らに比べ、
真面目一方の両親に育てられたことが不満に思えてならなかった」
少女時代、母親と二人暮らしの親友の家へ遊びに行ったときの思い出、
「こじんまりとしたダイニングルームには、いつも女だけの暮らしに特有の、 
のんびりした空気が漂っていた」

わたし自身の家庭も著者のそれに似た雰囲気だったので、
この感覚は言葉でなく肌でわかるという感じ。
わたしはきょうだいが多く、家は自営業で住み込み従業員もいて
ほとんどプライベートな時間がない子供時代だったので、
一人っ子で両親が共働きだったり、母親が専業主婦だったりするクラスメイトの家に
遊びに行ったとき、のんびりした空気が強烈に羨ましかったことを思い出して
著者に一気に親近感を覚えた。
by gloriaxx | 2004-09-28 22:35 | ★4


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