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小蓮の恋人 井田真木子 文藝春秋 ★★★★★

馳星周「不夜城」の巻末に参考文献として本書が挙げられていた。
中国残留孤児の子供として中国で生まれ、日本で新日本人としての人生を選んだ
残留孤児二世の若者たちを描いたノンフィクション。
この著者の作品は何冊か読んだが、日頃ほとんどノンフィクションを読まない私でも
どの作品もぐんぐん引き込まれて最後まで興味深く読み通してしまう。
著者が取材対象の奥深い部分まで入り込み、時には生活を共にするほどの長い時間と
エネルギーをかけて取材し、人間的な結びつきまで築いていることがうかがえる。
だから登場人物が生き生きした存在感をもっていて感情移入できるし、
それほど関心のなかったテーマでも物語に引き込む力があるのだ。
本書もただ残留孤児が日本社会でどのように差別や排除を受けながら適応していったか
だけではなく、家族、恋愛、夫婦関係、2つの国のアイデンティティを持つがゆえの苦悩
など様々な側面から描かれていて読み応えがある。
「恋愛は個人と個人の関係であると同時に、その時代と社会のありようを映し出す鏡である。
恋人や夫婦の関係性とはいわば彼らが属している社会の構造が生み出す機能なのだ」
(中略)というくだりは説得力がある。
実際、取材対象である王家の両親夫婦は中国の貧しい農村においては、愛情もないが
特に問題もなく夫婦として機能していたのに、日本の東京という都会に来て個々の人間
として向き合うことを必要とされたとたん脆く崩壊してしまう。
孤児二世にとって恋愛が人生の大問題だという現実も重い。

ちょうど今('02年10月)日本には北朝鮮に拉致された数名の日本人が一時帰国している。
彼らの子供たちは自分や両親が日本人だとは夢にも思わず、北朝鮮の思想教育を受けて
育っているらしいが、彼ら家族の永住帰国が抱える大きすぎる問題と重ねて読んでしまった。
by gloriaxx | 2004-10-11 23:23 | 評価 ★5


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