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暗いところで待ち合わせ/ 乙 一 幻冬舎文庫 ★★★★

若くして突然視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。
ある日、家の前の駅で人身事故があり、警官が不審なことがなかったかと訪ねてくる。
その日から彼女は家の中に自分以外の人間がいる気配を感じる。

日本ホラー界の将来を担う若手、という著者の情報から予想していた作風を
いい意味で裏切る小説。
世間にうまくなじめず、社会から身を隠すようにひっそりと暮らす若い男女の
繊細で傷つきやすい心の内を上手に、共感を呼ぶ筆致で描写していて読後感も爽やか。

また、一読者としていろんな小説を読んだ時にしばしば感じる、
本筋とは無縁で些細だがどうも気になる疑問の類
(登場人物の生活シーンの描写に多く、作家のずさんさやご都合主義が露呈してしまう)
を先手を打って説明(しかもさりげなく)する技量にも感心した。
たとえば、食料品の買い物から帰った主人公が買ったものを台所の床に置いたまま
寝室にひきこもってしまう、というくだりがある。
「ナマモノや冷凍食品はどうなる!?」と気になるところを、
さりげなく「今日は冷蔵庫に入れなければならないようなものは買ってなくてよかった」
と主人公に独白させることで、すっきりさせてくれる。
こういうのってどうでもいいようで作品評価にけっこう影響大なのだ。
そういう意味でも著者はエンターテイメント小説のプロだと思う。
('04 10 5)
by gloriaxx | 2004-10-12 18:09 | ★4


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