カテゴリ:評価 ★5( 37 )

その名にちなんで The namesake ジュンパ・ラヒリ 新潮社★★★★★

インド系アメリカ人、ゴーゴリ・ガングリーの名前の由来は
彼の父親が若き日に愛読し、事故死を免れたときに手にしていた
ニコライ・ゴーゴリにちなんでつけられた。
彼はアメリカ風でなければインド風でもない変わった名前を嫌い、重荷に感じて改名する。
それは両親が執着する「インド的世界」そのものへの違和感でもあった。

日常のさりげない描写をわかりやすく丹念に積み重ね、静かに心に染み入る物語。
しかし、よく考えればかなり特殊な世界に住む人々の話である。
それは主人公がインド系アメリカ人だからではなく、
主人公を含め、彼の親や妹、アメリカ人の恋人とその両親、
後に主人公の妻となるインド系女性とその友人たちなど、
登場人物のほとんどがイェール、ハーバード、プリンストン、
マサチューセッツ工科大といったアメリカの名門大学や大学院を卒業し、
大学教授、建築家、弁護士といったエリート職業に就く人々だから。

著者本人も同じような境遇に生まれ育ったのだろうけど、
アメリカの平均的な庶民層(ブルーカラーやホワイトカラーでもエリートではなく、
ハンバーガーやTVディナーを食べてフットボールを観るのが楽しみ)が
この本を読んでもピンとこないだろうなと思った。(まず読まないだろうけど)
むしろゴーゴリの両親の生活信条やアメリカ感などは日本人の方が共感するだろう。

わたしにとっても登場人物たちの境遇はまるで別世界なのだが、
違和感を覚えさせず自然に感情移入させる筆致は見事だ。
ゴーゴリのアメリカ人の恋人・マクシーンとその両親のライフスタイルには憧れる。
マンハッタンで生まれ育ち、金持ちでインテリでリベラルな両親の間の一人娘である
マクシーンみたいな身分に生まれたかった!!!

~マクシーンは(中略)いまの自分とは違うものになりたいとか、
 違う環境で育ってみたいとか思ったことはないらしい。
 彼の見るところ、それこそが二人の大きな差なのである~

~彼女は書籍や絵画や共通の知人についてまるで友人同士のように両親と議論を交わし、
 彼が親に対して感じてしまう憤懣はまったく存在していない。義務という観念もない。
 この家では親が娘の行動を縛らないのに、娘は素直に幸福に親元で暮らしている~

最近、日本でも「ともだち親子」が多いけれどマクシーンの場合はスケールが違う。
ゴーゴリが彼女と両親の暮らしぶりに恋してしまう気持ちがよくわかる。

妻となったモウシュミのスノッブな親友たちに対してゴーゴリが抱く違和感や、
心がすれ違いつつある2人が久しぶりに外食した夜、
レストランが期待はずれだったというささいなことに神経を逆撫でされて
それを夫婦関係に投影してしまうモウシュミの心理描写は絶妙。
('04 11 25)
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-29 01:07 | 評価 ★5

最悪 奥田英朗 講談社文庫 ★★★★★

パチンコとカツアゲで生活費を稼ぐ天涯孤独の和也、
不況に苦しむ小さな鉄工所社長の川谷、
都市銀行のOLで支店長のセクハラや妹の家出に悩むみどり、
それぞれに「最悪」としか言いようのない極限まで追い詰められたまったく無縁の3人。
その人生が交差した時、運命はとんでもない方向に転がり始めた。

まさにジェットコースターノベル。
銀行、町工場、ヤクザ、ケチな犯罪者、登場人物たちが属する世界はまったく違うのに、
それぞれの描写のリアリティには舌をまく。
しかもその背景をふまえた人物の心理描写も説得力あり。
ディテールを丹念に積み重ねて各人が「最悪」な窮地に追い込まれていく展開は
読んでいるだけでやるせないためいきが出るほど。
著者の前身はプランナー、コピーライター、構成作家とか。納得の取材力だ。

一転、3人が出会ってからは出来のいいクライム・アクションムービーを観ているように
気持ちのいい加速度をつけてクライマックスまで突き進んでいく。
楽しい話ではないけれど、読後感に爽快さと救いがあるのも◎
('04 11 8)
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-09 17:33 | 評価 ★5

脳男 首藤瓜於 講談社文庫 ★★★★★

第46回江戸川乱歩賞受賞作。
連続爆弾犯のアジトで犯人と格闘していた男が逮捕された。
鈴木一郎と名乗る彼は超人的な身体能力を備えながら、感情を持たない人間だった。

ニュータイプのヒーロー物としてシリーズ化できるのでは。
少なくとも後日談でもう一作は読みたい。
専門的分野の描写も緻密で詳細なので奇想天外な話だが説得力がある。
また、鈴木一郎の精神鑑定を担当する医師・鷲谷真梨子、
巨体の刑事・茶屋など登場人物が嫌味なく魅力的。
(私的キャスティングは鷲谷真梨子=鈴木京香、茶屋=ブラザー・トム)
心を持たない男・鈴木一郎にさえ人間的な魅力を感じさせる筆力はすごいと思う。
('04 11 2)
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-04 20:07 | 評価 ★5

邪魔  奥田英朗 講談社 ★★★★★

東京都下の小さな住宅街。
原付バイクで街を走り回り、オヤジ狩りで虚勢を張ることで仲間にしがみつく高校生、
念願のマイホームを手に入れ、親子4人のささやかな幸福に満足しながらも
サラリーマンの夫の金銭感覚に一抹の不安を拭えない主婦、
事故で妻を亡くして以来、感情も生きている実感も希薄で、
亡くなった妻の母とのつながりだけが生きがいの刑事、
小さな放火事件が発端となってそれぞれの人生が予測不可能な方向に動き出す。

圧倒的なおもしろさ!
かなりの長編なのに読み始めると止まらない。
警察内部からヤクザ組織、スーパーマーケットのパート事情まで
とにかくディテールが詳細でリアロティにほころびがないので安心して読める。
そのうえ心理描写がバツグンで、特に平凡な主婦・及川恭子のそれは見事。
夫が「競馬で勝った」と言う大金についてつきまとう疑惑、
それを打ち消して目の前の幸福を信じようとする涙ぐましい努力、
崩壊していく家庭を必死で守ろうとしながら、
追い詰められていくぎりぎりの精神状態はすごい読み応え。
('04 10 30)
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-04 19:48 | 評価 ★5

恋愛作法 宇野千代 海竜社 ★★★★★

90いくつで亡くなるまで生涯恋愛体質を貫いた著者曰く
「私が重ねたいくつもの恋愛の成功と失敗。試行錯誤の体験を通して学んだ恋愛の処方箋」

いちいち引用していたら何十行にもなるほど共感と感銘に満ちた言葉だらけ。
奔放に数々の恋愛を重ねておきながら女として思い上がらず、
自分の何がいけなかったかを見極めて当時の心理分析までしているなんて尊敬するばかりだ。

千代センセイはこうおっしゃる。
「その人の目をまっすぐに見て、私あなたが好きですと言えますか」
もちろん私はいつもそう言ってます。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-04 18:15 | 評価 ★5

ピーコ伝 ピーコこと杉浦克昭/聞き手 糸井重里  日経BP社 ★★★★★

「好きな男がいても彼の心をつかもうとは思わない。体に対する欲望もない。
こっちが勝手に好きになったらできるだけのことをしてあげるけど見返りは求めない。
こうすること自体が私の欲望です」こう言い切れるピーコさんはすごいと思う。

私みたいな煩悩の塊は、自分が好きになったら相手にも好きになってほしいし、
逢いたい、声を聴きたい、抱き合いたいと欲望でいてもたってもいられなくなる。
左目を取ってからは自分がなにかに生かされてるような気がすると彼は言うが、
徹底してストイックで潔い生き方の根っこは、
ご両親の健全で節度のある育て方だということががよくわかる。
毎日がパーティーだったという若い頃の話もゴージャスでおもしろいけど、
ただの自慢話に終わらず生き方の美学が伝わってくる。

「自分も好きで、相手も好きになってくれて、抱き合ったりセックスしたら
それで愛がかなうといえるのか、違うと思うのよ。
それは欲望の実現であってそれだけじゃ愛じゃない」
この言葉の深さはハートを直撃である。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-04 18:12 | 評価 ★5

優しく殺してKilling me softly ニッキ・フレンチ 角川文庫 ★★★★★

主人公アリスの視点から描かれているので、映画よりさらに心理描写などにリアリティがある。
アリスをカマトトや悲劇のヒロインぶった女にしてないところに好感が持てるし感情移入できる。
出会った瞬間から理屈ぬきでのめりこんでしまい、理性では別れたほうがいいとわかっていても
それができない一種熱病のような恋愛について、映画のページで感想を書いたが、
原作はもっと現実的で、アリスが仕事や友人や趣味といった自分の世界を放り出して
アダムとの関係にハマっていくプロセスがリアルに描かれている。
ラストも原作のほうがシビアだがカタルシスがあってよい。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-03 14:17 | 評価 ★5

ショットガンと女 藤原信也 集英社 ★★★★★

もし私が男で、20年ばかり早く生まれていたら
こんな風に世界を旅してこういう本を書きたいと思う。
沢木耕太郎「深夜特急」を読んだときもそう思ったけど。

恥ずかしい話だけど、私はずっとこの著者を「クマさん」と呼ばれている造形作家と混同していたのである。(名前が似てない?)
写真はもちろんだけど文章が上手。感情の抑制、言葉の選び方など嫌味が無くセンスがいい。
「かわいそうな幸福」「テキサスのドーナッツ」が好き。ヘミングウェイにまつわる何篇かもよかった。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-03 14:15 | 評価 ★5

停電の夜に ジュンパ・ラヒリ/ 新潮社 ★★★★★

ロンドン生まれでN.Y在住、デビュー短編集がピュリツァー集を受賞したインド系作家の短編集。
妻子あるインド系男性と恋愛関係になった白人女性の視点から描かれた「Sexy」がよかった。
無意識に男と逢う時を想定して下着を選んだり、
男が属している世界に関係するものに興味を持ったり、
恋愛中は世界がそれを中心に回ってしまう女性の心情がさりげなく、
しかも共感を呼ぶタッチで書かれている。
主人公が一日だけ預かるインド系少年との会話部分がとてもいい。
「セン夫人の家」主人公の白人少年も年齢は子供だけれど精神的には大人だ。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-03 14:08 | 評価 ★5

ホテルカクタス 江國香織/佐々木敦子(挿画) ビリケン書房 ★★★★★

大人のための童話。
感動や教訓めいたものを押し付けがましくなくさらりと書いていてよかった。
佐々木敦子の絵がパーフェクトに私の好みのテイスト&タッチである!
金持ちだったら原画を買いたいほどだ。★5つは絵の力。
[PR]
by gloriaxx | 2004-11-03 13:54 | 評価 ★5