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まだ見ぬホテルへ(新潮文庫)/ 遥かなるホテルへ(日本経済新聞社) 稲葉なおと ★★★★★

 著者は一級建築士。プライベートや仕事で泊まったり、
泊まる予算がなく憧れの建築を見学しただけという世界中の魅力的なホテルや
そこで出会った人々についてのエピソードをエッセイにまとめたもの。
書くのが本業ではない人だとはとても思えないほど上手で、
読むことが純粋に心地いい文章である。
書いたもの(特にノンフィクション)には人柄がはっきり出るものだが、
すごく魅力的で好感が持てる。
本を読んで人柄に惚れたのは景山民夫、沢木耕太郎、山下マヌー以来だ。

プロフィール写真を見るとなかなかいい男で、しかも建築家。(B'z稲葉浩志の従兄弟らしい)
それが世界各国の有名ホテルでのエピソードを書くのだから、
かっこつけたり、美化したり、自分に酔ったり、という要素が鼻についてもおかしくないのに
そんなものはかけらもない。また、恥をかいたり、失敗したり、よこしまなことを企てた経験なども正直に書いてちっともイヤミがない。
それでいておしゃれで粋な読み物にまとまっているのだからすごい才能だ。

こんな素敵な本を読むと、旅したい欲求が押さえ難くムラムラと湧いてくる。
著者自身の撮影による写真もプロ並みのクオリティでものすごくセンスがいい。
# by gloriaxx | 2004-10-11 22:16 | 評価 ★5

夜光虫 馳 星周 角川文庫 ★★★

 かつてプロ野球でノーヒットノーランを達成したヒーロー、加倉昭彦は肩の故障で引退。
事業の失敗で借金を作り、再起を賭けて台湾プロ野球へ。
そこはマフィアによる八百長が横行する世界だった。
八百長に手を染めた昭彦は、ひとつの過ちを隠蔽するため
さらに大きな悪に手を出さざるを得なくなる。

 野球にはまったく興味がないのであまり気が進まなかったところ、
男ともだちが「馳 星周作品ではこれがベスト」とリコメンドするので読んでみた。
「雪月夜」と違って恋愛が物語の主軸になっているのはいいけど、甘っちょろい!
昭彦が狂うほど恋焦がれ、友人を裏切り、殺してまでモノにする台湾人の人妻が
ただのキレイキレイな優等生って感じで、生身の女っぽくなくて精彩に欠けるのだ。
だから昭彦が悪に身をやつしてまで惚れるという設定に説得力がない。
馳 星周作品の女はタフでしたたかな悪女でありながら脆い一面もある、
というキャラじゃないとおもしろくない。
その点、マフィアのボスの妹は嬉しくなるほど悪くて華があっていい。
物語としては台湾黒道版シェークスピアって感じでおもしろいが、ラストもセンチメンタルすぎ。
# by gloriaxx | 2004-10-11 22:15 | ★3

雪月夜 馳 星周 双葉文庫 ★★★

 北海道・根室。東京を去り、故郷に戻ってひっそりとロシア人相手の電気店を営む幸司。
そこへ忌まわしい絆で結ばれ、東京で暴力団になっていた祐司が突然姿を現す。
二人のかつての悪友、敬二が組の金2億とナターシャというロシア人娼婦を奪って逃げたという。
祐司に暴力で脅され、幸司は敬二の捜索に協力させられるが、
密かに祐司を裏切って2億持ち逃げを画策する。

 出張直前に買って新幹線の中で読んだ。
う~ん、馳 星周はやっぱり暑い国でないとピンとこないな。
熱帯夜の街を汗まみれで逃げてもらわなきゃ、
雪に閉ざされ凍てつく北の漁港ってなんか辛気臭くて・・・
主役の男二人の愛憎劇が中心で、女がほとんどからまないのもおもしろくない。
北海道自体行ったことないし、根室なんてまったく知識はないけど、
「こんな土地に生まれ育たなくてよかった」と真剣に思わせる臨場感はさすが。
ヤクザ・祐司のキャスティングは、やしきたかじん+「少林サッカー」の悪役以外考えられないのが我ながらおかしかった。幸司は陳 小春(チャウ・シンチョン)だ。
# by gloriaxx | 2004-10-11 22:13 | ★3

第4の神話 篠田節子 角川書店 ★★★★★

 芸大声楽家卒の美貌の女流作家・夏木柚香。
貿易会社ジュニアの夫、二人の子供、別荘、パーティー、
海外のリゾートで過ごすバカンス、彼女を崇拝する各界エリートの男友達・・・
華やかな私生活すら自らを演出する小道具として、それをなぞったような作品を量産し
驚異的なベストセラー作家となった彼女は人気の頂点で癌に侵され亡くなった。
死後5年、出版社は再び彼女のブームを起こそうとフェアを組む。
雑誌の特集記事執筆を依頼されたフリーライターの万智子は、
夏木柚香を知る人々に取材を進めるうち、
美しい人気作家の世に知られているイメージと実像の違いに気付いてゆくが・・・

 読めば読むほど森 瑶子がモデルとしか思えない大胆なミステリー傑作。
作家・夏木柚香の謎と真実をめぐる本筋はもちろん、
作品中に数々の「夏木作品」が出てくるのだが、
それだけで独立した作品に十分なり得るほど読み応えがある。
また、フリーライター・万智子の仕事環境、経済状況などの描写には舌を巻いた。
著者はたしかライター出身ではなかったはずだが、
そうだったかと思うほど細部までリアルで
思わず身につまされる箇所も数知れず・・・・
他にも能や舞踏の世界についても驚くべき取材力である。
# by gloriaxx | 2004-10-11 22:10 | 評価 ★5

魔笛 野沢 尚 講談社 ★★★

 白昼の渋谷スクランブル交差点。
死者・重軽傷者数百名を出した無差別爆弾テロの犯人は女だった。
そしてそれは日本中を震撼させた新興宗教団体「メシア神道」教祖に
死刑判決が下された瞬間に起こった。

 著者はドラマ「眠れぬ森」「恋人よ」などの脚本でも有名。
これも2時間くらいの単発モノドラマ化されたらさぞかし見ごたえがあるだろう。
登場人物が魅力的でキャラがきっちり立っているので、
頭の中でキャスティングしながら楽しんで読める。
徹底した取材力、大胆な設定で読み応えのある作品だ。
ただ、素材やテーマが個人的に好みではないのと、
主人公で語り手の爆弾テロ犯が苦手なタイプの女なので、途中でだんだんしんどくなってきた。
# by gloriaxx | 2004-10-11 22:08 | ★3