恋愛前夜 鎌田敏夫 角川書店 ★★★★

さすが数々のヒットを生んだ恋愛ドラマの名手だけある。
ワンナイトスタンドというような一度だけの男女の接触をテーマにした短編集だが、
どれも設定やセリフが自然というか、違和感なくドラマに入っていける。
私もこういう普通にいそうな男女の普通の恋愛をちゃんと書きたいなぁ。
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# by gloriaxx | 2004-11-03 13:24 | ★4

モダンガール論 斉藤美奈子 マガジンハウス ★★★★

著者がこの本を書くきっかけは
「専業主婦と働く女性という二つの生き方はどこで分岐したのだろう」という単純な疑問だったとか。
それをここまで近代女性史をていねいに遡って、
しかもお勉強臭くならずおもしろくためになる読み物にまとめた才能には非常に感心する。
読み進むうちに、私自身がなぜ普通のOL→主婦という道ではなく、
紆余曲折の果てに現在の職業に就いたのか、とか、
日頃から専業主婦に対して抱いているアンビバレントな感情などが
なんとなくだが解き明かされていくような気がした。
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# by gloriaxx | 2004-11-03 13:20 | ★4

不倫の歴史 サビーヌ・メルシオール=ボネ / オード・ド・トックヴィル 原書房 ★★★★

Histoire de L'Adultere 副題は「愛の幻想と現実のゆくえ」
古代ギリシャから現代に至るまでの、主にフランスの各時代の不倫観の変遷を辿ったもの。
多くの芸術、文学、映画作品を例にとった解説もわかりやすく興味深い。
そもそも時代ごとに結婚そのものの在り方が「家同士の財産や地位を守るための契約で、
個人の意思はまったく問題外」であるなど現代を生きる私たちの理解を超えた場合が多いので,
一口に「不倫」と言っても事情や実態は様々。
19世紀あたりに入ってようやく恋愛結婚というものが現れ、記述にも共感を覚えることができる。
2001年を迎えた現代の章におけるカップル観はかなりリアリティがある。

おもしろいと感じたのは「離婚・再婚率」の高いアメリカ人は男女とも「浮気・不倫」を否定しているということ。簡単にやり直しができるから一緒にいる間は相手に忠実でなければならないという考え方が強いらしい。
これが即、ピューリタン的倫理観につながるかどうかはなんともいえないと思うが、確かにアメリカ映画では夫婦間やステディなカップル間での「裏切り」というものに対してかなり厳しい態度を取っているように思う。
作家フィリップ・ソレルスの「浮気をしないことがいいことなのか、相手に言わないことがいいことなのか、結婚している、いないに関わらず多くのカップルが悩み続けている問題だ」など日本の現実にもシンクロするだろう。
社会学者ジャン=クロード・コーフマン言うところの「合法的な浮気」つまり「タブーぎりぎりのところで交わされる意味深な会話や恋愛ごっこの代償行為でカップルが長続きしたりしているのである」
なんて、ちょっとドキッとしたり・・・
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# by gloriaxx | 2004-11-03 13:15 | ★4

落花流水/山本文緒 集英社文庫 ★★★★★

本能のままに生きる奔放で無軌道な母親、
その母を姉、祖父母を両親として育てられた少女・手毬と、
隣の家に住む日米ハーフの少年・マーティル。
幼い彼らのごく小さな世界から始まった物語は、
10年ごとの年月で語り手の視点を変えて予想もしないスケールに展開する。

うますぎる!よくこんなストーリーを考えつくなぁ~と心底感心。
1967年から10年ごとに登場人物の境遇が激変し、
先がどうなるのか気になってページをめくる手がとまらない。
さらに、10年ごとに語り手を交代させて
ドラマチックすぎる人生遍歴を不自然にならないよう描写するテクニックも見事だ。
最終二章は2017年、2027年と近未来の話だが、
現代から無理なく予測できる程度の未来観も上手い。
読者の予測を気持ちいいほど裏切り続け、予定調和のかけらもないラストは鮮やか。

文中、子連れ同志の再婚から発展した血のつながりのない家族について
主人公が自問する箇所がある。主人公はある日突然、姉だと信じ込んでいた人物から
実の母だと告げられてショックだったので、自分の子供にはあえて真実を話していない。

~私達はそういうことをちゃんと話し合ったことがなかった。
 (中略)平穏な普段の生活の中で改まって出生のことについて話す機会などなかった~

私の母は複雑な出生で、実の母と思っていた人から13歳のある日突然、
真相を告げられるという体験をしている。
その人は母の父(わたしの祖父)と別れて家を出る間際に母に真実を告白したのだ。
祖父はそれ以降も女性遍歴を重ね、最終的に一緒に墓に入った女性のことを
わたしも幼い頃から「おばあちゃん」と呼んでいたけれど、
誰に教えられなくても自分たちに血がつながっていないことや、
いろいろと複雑な事情が絡んでいることは自然にわかっていた。
経験から、子供というのは大人が思っているより遥かに真実を知る能力があると思うので、
この作品に登場する大人びた子供たちの心理描写に自然に共感することができた。
('04 10 25)
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# by gloriaxx | 2004-10-31 18:48 | 評価 ★5

砦なき者/ 野沢 尚 講談社 ★★★★

ある日突然テレビに登場し、映像やメディアの力を巧みに利用して
いつの間にか若者のカリスマとなった邪悪な男と、
テレビ業界という組織に属しながら真実を伝えようとする男たちの戦い。

おもしろい!マスメディアの暴走・盲信への警鐘であり、
ミステリーとしての構成もバツグン。
悪のカリスマ・八尋樹一郎の出現から、彼が強大な存在に化けていくプロセスは
ヒトラーの誕生からナチスドイツの隆盛をイメージさせる。
不穏な余韻を残した結末も見事。
('04 10 17)
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# by gloriaxx | 2004-10-21 01:29 | ★4

烈火の月/野沢 尚 小学館 ★★★★

北野武監督・主演「その男、凶暴につき」の原案を新たに小説化したもので
著者の死の数ヶ月前に出版された作品。
「あとがきというものに抵抗がある」という冒頭で始まる著者のあとがきが感慨深い。

「笑いながら人を殴る」特技を持つ刑事・我妻は圧倒的な存在感。
夜の公園でホームレス襲撃犯の少年たちにわざと襲われ、
一転して反撃、彼らを徹底的に痛めつけて「正当防衛・緊急避難」を主張する。
自首しようとする顔なじみの悪党に
「検挙強化月間で特別手当がもらえるから月が変わってから来い」と追い返す。
組織に属しながら組織を敵に回すアウトローで、どこか憎めないキャラクターは
北野武のために書かれた役ならでは。

拉致されて短期間でヤク中にされてしまう麻薬取締官・烏丸瑛子も魅力のあるキャラ。
ただ、拉致中にレイプされて妊娠した子供を産む決心をするという結末はいただけない。
捜査官として銃撃戦で自分をレイプした男たちを射殺した瑛子は子供を産むことについて、
「2人の生命を奪った贖罪かもしれないし、
自分の中に芽生えた生命を殺したくないという母性本能かもしれない」と語る。
映画でも小説でも似たような展開を目にすることがあるが、
この手の「オチ」には同性として強烈に違和感、不快感を感じる。
('04 10 15)
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# by gloriaxx | 2004-10-21 01:10 | ★4

ボヴァリー夫人/ 文:姫野カオルコ 絵:木村タカヒロ 角川書店 ★★★★★

フローベールの「ボヴァリー夫人」が姫野カオルコの新解釈による文章と
木村タカヒロの絵のコラボレーションでおしゃれに生まれ変わった大人のための絵本。

19世紀フランスの片田舎で裕福な農家の娘として育った美貌のエマは
まじめだけが取り得の医者・シャルル・ボヴァリーの妻となるが、
夫の地味で実直な性格とぱっとしない容姿に「退屈な男!」と幻滅し、
華やかな刺激を求めて婚外恋愛に走る、という話。

旧かなづかいの岩波文庫版「ボヴァリー夫人」は実家の本棚にあった。
フランク・ヴェデキント「春のめざめ」やミルボウ「小間使いの日記」
谷崎潤一郎「蓼食う虫」、三島由紀夫「美徳のよろめき」etc...
読書好きだった母の蔵書はわたしも子供の頃かたっぱしから読んだので
これも読んだはずだがまったく記憶にない。

姫野カオルコは著書の中で繰り返し恋愛経験がほとんどないことを書いているが、
その割りに恋愛や男女関係の本質をズバッと斬る視点は鋭い。
自身で経験してないからこそ頭脳で分析できるのだろうか。

金持ちの遊び人ロドルフがエマをモノにするまでの手管を「様式美」と評し、

~「どうして?」 注意。様式美では、ここですぐ女の問いには答えないこと。~
~ ロドルフは自嘲するように鼻から息を抜く。
 「・・・それは、ぼくは悪い男だからですよ」様式美はいつも自分を悪い男だと言う。~

エマとロドルフの不倫をバッサリ一刀両断。

~愛ではない。エマとロドルフの逢瀬は。それは官能だ。肉欲だ。猥褻だ。
 そんなこと、わかっていたエマには。もちろんわかっている。ロドルフは。~

ロドルフに捨てられた直後、かつてお互いに好意をもっていたレオンと再会したくだりでは、

~エマの心身は、ナイロンになっていた。
 離婚直後やフラれた直後、よく人の心身はナイロンになる。発火しやすい。~

参りました!って感じだ。
木村タカヒロの絵がスタイリッシュで官能的ですばらしい!
('04 10 12)
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# by gloriaxx | 2004-10-12 22:41 | 評価 ★5

暗いところで待ち合わせ/ 乙 一 幻冬舎文庫 ★★★★

若くして突然視力をなくし、独り静かに暮らすミチル。
ある日、家の前の駅で人身事故があり、警官が不審なことがなかったかと訪ねてくる。
その日から彼女は家の中に自分以外の人間がいる気配を感じる。

日本ホラー界の将来を担う若手、という著者の情報から予想していた作風を
いい意味で裏切る小説。
世間にうまくなじめず、社会から身を隠すようにひっそりと暮らす若い男女の
繊細で傷つきやすい心の内を上手に、共感を呼ぶ筆致で描写していて読後感も爽やか。

また、一読者としていろんな小説を読んだ時にしばしば感じる、
本筋とは無縁で些細だがどうも気になる疑問の類
(登場人物の生活シーンの描写に多く、作家のずさんさやご都合主義が露呈してしまう)
を先手を打って説明(しかもさりげなく)する技量にも感心した。
たとえば、食料品の買い物から帰った主人公が買ったものを台所の床に置いたまま
寝室にひきこもってしまう、というくだりがある。
「ナマモノや冷凍食品はどうなる!?」と気になるところを、
さりげなく「今日は冷蔵庫に入れなければならないようなものは買ってなくてよかった」
と主人公に独白させることで、すっきりさせてくれる。
こういうのってどうでもいいようで作品評価にけっこう影響大なのだ。
そういう意味でも著者はエンターテイメント小説のプロだと思う。
('04 10 5)
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# by gloriaxx | 2004-10-12 18:09 | ★4

FLY, DADDY,FLY 金城一紀 講談社 ★★★★★

あまりにエキサイティングでおもしろく、2時間で読みきってしまった。
「対話篇」と天と地の差!この多様性はやっぱりすごい才能なのだろう。

主人公は47歳の平凡なサラリーマンで妻と高校生の娘(中学生の時に渋谷でスカウト
されたほど美人で名門女子高に通っている)がいる。
ある日、その娘が顔と腹を殴られて入院した。殴ったのは芸能人を両親に持つ男子高校生で
ボクシングインターハイ二連覇の記録を持つ選手。娘は心身ともに深い傷を負い心を閉ざす。
主人公は復讐のために包丁を持って高校に乗り込むが、間違えて隣の落ちこぼれ高校へ。
そこで偶然出会った5人の高校生に事情を聞かれた主人公は
「僕たちが復讐の舞台を整えるから死ぬ気でがんばってみませんか」と勧められ、
在日韓国人高校生・朴の弟子として身体を鍛え、娘の仇を討つために
戦いに備えて1ケ月間厳しいトレーニングを受けることに・・・

 奇想天外な物語だが、スポーツ青春感動映画を観るような感動と爽やかな読後感。
ブルース・リーをはじめ、随所に散りばめられた映画へのオマージュも粋である。
主人公を特訓し、肉体だけでなく精神面でも「師」のような存在となる
朴舜臣がめちゃくちゃかっこいい!
吉田秋生「バナナ・フィッシュ」のアッシュをしのぐ男っぷりである。
他の仲間たちも個性的で魅力あふれるキャラ。(スタンド・バイ・ミーを意識してるかも?)
これ映画化されてほしいな~、かっこいい男のコいっぱい使って・・・
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# by gloriaxx | 2004-10-12 17:44 | 評価 ★5

対話篇 金城一紀 講談社 ★★

子供の頃から身近な人間が次々に死んでいくので「死神」と呼ばれ、他人との接触を避けて
孤独な人生を送る大学の同級生との短い交流を描いた「恋愛小説」

がんで入院し、短い余命を悟った主人公にはどうしても殺したい相手がいた。
彼を突然見舞った同級生Kがその殺人依頼をあっさり承諾する「永遠の円環」

動脈瘤の発作で倒れ、銀行を辞めた主人公のもとに不思議なアルバイト話がもちこまれる。
それは冤罪事件で勝訴した老弁護士と車に同乗して東京から鹿児島まで行くというものだった。
老弁護士と別れた妻の思い出を聞き、
旅をまっとうした主人公には生きる希望が戻ってくる「花」の3編。

これは著者の試行錯誤?過渡期?いかにも純文学である。
特に「永遠の円環」の友人の名前がKとは・・・教科書で読んだ夏目漱石を思いだした。
3編とも「死への恐怖と生き続けることへの虚しさ」が重苦しく漂っている。
「花」はまだ救いのある結末だが、あまりにも予定調和というか、
感動的であるはずのエピソードの数々も使い古された印象で
「なんで今さらこんな話を・・・」という感じ。
いろいろと込められた作品集なのだと思うが、私にはよさがわからなかった。
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# by gloriaxx | 2004-10-12 17:42 | ★2