夫41歳。妻35歳。ひとり息子は中学3年生。
夫は子連れ再婚だが夫婦仲はよく、息子も新しい母親と友人のように気が合っている。
近所でも評判のしあわせな一家は、妻の初めての妊娠で新たな喜びに包まれるはずだった。
しかしある朝、夫が通勤電車で痴漢の濡れ衣を着せられたことから
「幸福な家庭」は徐々に崩壊していく。
痴漢といえば今までは当然のように女性=被害者の面からしか見ていなかった。
しかし、痴漢冤罪で逮捕され、数年がかりの裁判で冤罪を晴らした男性のドキュメンタリーを観て、
その男性の妻の身に自分を置き換えると、とても他人事ではないと思った。
この小説は「もし自分の家庭がそんな事件に巻き込まれたら」という恐怖に加え、
学校内でのいじめ問題や、夫婦・親子間の本音と建前など現代社会の不安を
息苦しくなるほどリアルに描き、家族が信じあうとはどういうことか、
毎日平穏に暮らせることがいかに幸福かをあらためて考えさせる。