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銭湯の女神/ 星野博美 文藝春秋 ★★★★

「転がる香港に苔は生えない」で大宅壮一賞を受賞した著者が日本に帰国し、
生まれ育った東京で銭湯とファミリーレストランに通いながら
違和感に満ちた今の日本を観察した掌編集。
客観的で冷静なジャーナリスト的視点によって現実を見つめ、自分というフィルターを通して
感じたことや考えていることを明快に筋道立てて表現する筆力は読んでいて気持ちいい。
著者は自身を「エセ貧乏」と呼び、田舎者になれない不幸を嘆く。
~自分の属していた共同体や過去から切り離されて匿名の人間として生きられること、 
それが大都会の自由だと私は考えているが、
「田舎者」とは新しい自分を手に入れるまでに試行錯誤する プロセスそのものだと思う。~
~故郷に錦を飾る必要もなければ、稼いで親を扶養する義務もない、
いい仕事をして無理解な親を見返す必要もない。
時には創作や表現の原動力となるハンディが何もない。
このハンディのなさが自分にどれだけのハンディに なっているかはわからない~

このあたりの感覚は私にもやや覚えがある。
実家に住んでいた頃、同じような焦燥感や虚しさを感じていた。
私は田舎→都会というプロセスではなく、結婚して新しい名前を得ることによって
人生をリセットできたような、過去の自分を消せたような大きな解放感を覚えたのだが、
ハンディのなさは今も変わらない。
しかし、著者は女性としては私には理解し難い、苦手なタイプだということが本書で明らかになった。大柄な著者は必ずと言っていいほど男性と間違われるらしい。
(女子トイレ、銭湯の女湯、プールの更衣室などで止められたり、
叩き出されそうになったこと数知れずとか)
そんな外見にも関わらず男物の服を着、化粧をせず、
髪はおしゃれではなく手がかからないことを優先させたショートカット、
風呂なしアパートに住んでテーブルは段ボールのみかん箱で代用、ファミレスで原稿を書く・・・・
著者が食事するのも料理するのもめんどうで玉子入り生煮えうどんを作る章にいたっては殺伐とした気分になった。
いい、悪いではなく、気持ちいいまでに私とは相容れないタイプの人である。
私は5歳くらいまで自分のことを男だと思い込み、周囲にもそう言い張ってたのだが、
長じてこういう女性にならなくてほんとによかったと心底思ってしまった・・・・・
(失礼だと思うけど、きっと著者も私みたいに派手でミーハーな女は嫌いだろうな・・・)
by gloriaxx | 2004-09-30 18:35 | ★4


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