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ダイアモンド・ドッグス/DIAMOND DOGS アラン・ワット DHC ★★★★★

ハイスクールフットボールチームの花形クォーターバックのニールは
友人の家で酒を飲んでバカ騒ぎし、車で帰宅途中に下級生を轢き殺してしまう。
保安官の父親はニールが車のトランクに隠した死体を見たのに何事もなかったように振る舞い、
翌朝には死体は消えている。そしてニールは父親が怖くてそのことを問いただす勇気もない。
彼の心は幼い頃に家出した母親への複雑な想いと
ハンサムで他人には魅力的だが、酒びたりで暴力的な父親への恐怖でがんじがらめだった。

「恐怖に勝る幻想はない」冒頭にあげられた老子の言葉が強烈。
主人公は17歳までの人生のほとんどを
母親がどうして自分を連れていってくれなかったのか考え続け、
目がさめている時はほとんど父親を怖れ、怯えながら生きてきた少年。
たった一枚だけ残った家族写真を見つめ、指で父親の顔を隠しては
母親のイメージをふくらませ、彼女のその後の人生を想像する。
5歳の時に一度だけ母親から届いたカードを繰り返し読み、一風変わった筆跡を覚え、
専門家に鑑定を頼んで母親がどんな性格なの調べてもらおうとさえ考えるのがいじらしい。
親友・リードの家に泊まった夜には、朝目がさめたら自分がリードになっていて、
リードの両親が自分に愛情を注いで怖いときには抱きしめてくれる場面を想像するのも悲しい。

-自分には居場所がないことがわかっていた。僕が欲しいのはそれだけだ。心の安らぎだ。
 ほんの一瞬でいいから、不安がないとはどういうものかを知りたいのだ。-

家族という閉ざされた空間の中での絶対的な力関係やルール、
他人の目で見れば奇妙でいびつだが、当事者にとってはもはや意思の力では変えられないこと、
言葉ではうまく説明できない「問題」の描写が抜群にうまい。
直接暴力をふるうわけではなく、無言の威圧と言葉の暴力で息子を支配する父親の
モンスターぶりがエスカレートしていく展開はホラーっぽくさえある。
やがてニールは父親が自分以上に恐怖に縛られて生きていることを知るのだが、
愛情ゆえに恐怖の虜になっていた父と息子がついに心の平安を得るラストは
解放感に満ちて清々しい。
('04 10 4)
by gloriaxx | 2004-10-05 22:56 | 評価 ★5


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